ASAKUSA 1
11.1.7
酒盗ナス、ふぐ皮アボカド、栄螺アンチョビ、
どこか一つヒネリのあるメニューがあれば、
見逃さない女、迫川尚子。浅草のはじめて
歩く路地。店頭を掃除する若女将(?)に
「おいしいですよ」と声かけられ、じゃーと
いうことで、あたりを一周してから入った。
厨房には板さん一人。2階の団体さんが
もうすぐ終わります、もうすぐ落ち着きます
と大女将。正月で食材がないから、ヒネリ
のメニューは頼めなかったが、フグコースに
はありつけた。ポンジュース持ってウロウロ
する大女将に、「ポン酢だよ!手伝わなくて
いいから、邪魔しないで!」と板さんが怒
鳴る。あ、立場逆?と思ったら、やっぱ板さ
んは板さんで大女将は大女将(親子?)だ
った。今浅草寺の参道は三が日は横から
入れないのねと大女将。日本人はいつから
こんなにお行儀よくなってしまったのと。私た
ちも列に並ぶのは苦手で参拝者横目に早々
と乾杯。浅草で60年。以前このお店はロック
座の裏にあり、踊り子さんたちがよく食べに
来たそうだ。90歳。には見えない。雑炊のお
手本を!とお願いしたら、特別なことは何もし
ないんですよとおっしゃいながら、卵は「まだ」
「待って」と辛抱させられた。ちゃんと沸騰して
からなんですね。だから卵がだれない。板さん
は2月に宮内庁に就職されるとかで(天皇の料
理番?)、ここは13年働いたそうだ。後釜はい
ない。「区切りをつける」と大女将。そんな時に
呼ばれたのか私たちは。
(井野)
写真 by 迫川尚子
音楽(&デザイン) by 井野朋也
ASAKUSA 2
11.1.16
「三角」→「紀文寿司」→「正ちゃん」
浅草ゴールデントライアングルをハシゴ。
3日の賑わいとは打って変わって、
7日の浅草はもう平日と変わらぬ静けさ。
私たちがコースの他にフグ刺し一皿、白子も
刺し・焼き・鍋と3つまとめて追加注文し、鰭
酒あおるのを見て、隣の60前後中尾彬風が
黙っていられなくなった。「若いからよく入る」
向かいに20歳くらい下の美人。「愛人に見える
だろ。2度目の奥さんだ」と聞いてもいないのに
教えてくれ、「3度目でしょ!」と窘められていた。
昼からゆったり座敷で飲めてタバコも吸えて懐も
とりあえず気にせず思う存分フグが味わえる店
といったら、もうここ浅草の「三角」しかない。
私が50になりたてと明かすと、「今の50は、5
歳若い。男盛りだ」と励ましてくれた。
「紀文寿司」は「三角」の斜向かい。やはり100
年以上の老舗だ。さすが浅草!ご主人は4代目。
10年ぶりだが、お顔を見ればそうだそうだと思い
出す。ご主人も私たちを覚えていてくれた。25年
前、迫川の実家(田園調布の外れ)にはじめてご
挨拶に行った日の帰り、ガチガチの緊張がほどけ
てそのまま浅草に初詣、入ったのがこの「紀文」
だった。娘さんをくださいなんてあえて言わない。
物じゃないんだから。という私たちの論理はご両
親には通じなく、後日仕切り直しになったのを覚え
ている。「よく入れましたね。入りづらかったでしょ
う」とご主人。店頭には何も書かれていないから。
「自分の直感には妙に自信があるもので」と私。
それはいまだに実証されている。ネットの情報を
頼りに一度だけ入った地元中野駅南口のバカ高
くて口うるさい寿司屋(やはり江戸前)、すし飯に
赤酢使ってるのをやたら自慢してたけど、こちとら
25年前から紀文で食ってんだ!と言ってやるべき
だった。「紀文寿司」では2人で10貫食べた。相変
わらず温もりのある握り。おいしかった。
(井野)
写真 by 迫川尚子
音楽 by 井野朋也
90の女将に雑炊をつくっていただく
11.1.14
浅草、割烹玉川にて。
映像 by 迫川尚子
音楽 by 井野朋也