『日計り』刊行10周年記念サイト

街との関係

  この連載も大詰めになってきました。『日計り』におさめた写真は、新聞や雑誌、また有楽町の外国人記者クラブや旧日本銀行広島支店といったユニークな場所でも公開しました。そこでは『日計り』を代表すると言いますか、ウケがいいと言いますか、ぱっと見すぐ何の写真かわかるものを優先しましたが、こちらではコメントもつけられるせいか、回を重ねるごとにそうじゃない写真を選びたくなってきました。
  さて、今月の写真です。更地(駐車場)にポツンと古い建物が残っています。立ち退きに最後まで抵抗している姿かもしれません。
  この連載で何度も申し上げているように、私は街のスナップ写真家です。『日計り』は90年~00年代前半の新宿が舞台。当時から新宿は再開発の嵐でした。以前撮った場所をまた撮ろうとすると、見つからないことがよくあります。ここは北新宿2丁目。よく歩き回った場所です。いつの間に一つの街が跡形もなく消えていました。今、ここは高層ビルが建ち並んでいます。元住人でもないのに、何かむごい感じがします。感傷というより、本当にこれでいいの?という思いです。
  街は生き物とよく言われますが、街を長く撮り続けてきた私には、街と人間の関係も生き物に思えます。再開発には、その一番肝心なところが抜け落ちている気がします。街は本来、人間が一方的に意図して作るものではありません。むしろ様々な意図がぶつかったりすれ違ったりしながら、形作られるものです。そこには思いもかけない隙間や隠れ場所が生まれます。それを自分で見つけるのが街の醍醐味です。全てお膳立てがそろっている街は、街ではありません。街の写真家がそう言うのですから、間違いありません。

(2014.11)