『日計り』刊行10周年記念サイト

写真が教えてくれる

 
  私は写真家ですが、どちらかというと撮るのが専門です。だから撮りっぱなしにしてしまうんですね。まだ焼いていない写真が山ほどあります。焼いたものもたまっていく一方です。
  それをまとめて下さる人がいました。私の恩師で、写真家の金瀬胖です。「写真集を作らないの」ときかれただけなのに、「ありがとうございます!」と有無をいわせず大量の写真を金瀬さんに送りつけました。フィルムはデジタルのようにデータ送信という訳にいきません。それに、焼きを含めて私の写真です。それをお送りするしかありませんでした。当然のことながらものすごくかさばります。『日計り』をめくりながら思い出すのは、そのダンボール何箱分にもなった写真の重みです。
  今は便利で気軽なデジタルを使っていますが、それはそれとして、またフィルムをやろうという気持ちになっています。かつて現代写真研究所で写真を学び(今は講師をさせていただいています)、モノクロのフィルム現像の魅力に目覚めました。一枚の写真を撮るのは一瞬ですが、焼きは時間をかけて様々なアプローチが可能です。写真は光と影の芸術だとつくづく思いました。あの感覚を取り戻したくて。自宅の暗室をホコリをかぶせたままにしておくのももったいないですし。
  この写真は、97年の新宿東口の線路脇です。職場がちょうどこの真下にあり、抜け出してまずここを撮るんですね。よく見ると、雪の中にホームレスが寝ています。狙ったのではありません。写真はそこにあるものを写してしまいます。イギリス生まれの知人の画家に、何でこの人をほっておくの?と驚かれ、逆にびっくりしたことがあります。新宿ではホームレスが道ばたで横になるのは当たり前の風景でした。今はそれすら許されず、彼らは行き場を失っています。
  写真はやはり、発表して人様に見てもらわなければダメですね。撮っているだけではわからないことがあります。それを写真が教えてくれるのです。

(2014.2)