私の黒い焼き
先月、1ヶ月間、ベルクで『日計り』展をやりました。ベルク開店記念(お陰様で24周年!)の月だったので、自分の写真を、できれば新作を飾るつもりでしたが、うちのスタッフが『日計り』出版10周年も一緒にお祝いましょうと企画してくれまして、せっかくだからやることにしました。
今回の展示に使ったのは、私が10年前に焼いたオリジナルプリントです。本で使ったのは、私の師匠、金瀬胖さんの焼きです。なぜ、自分の焼きを使わなかったか。一言でいうと、自信がなかった。自分の写真をつかみかねていたところがあります。
とにかくこの最初の写真集は難産で、なかなかひとつにまとまりませんでした。一枚一枚の写真がまとめられるのを拒否しているかのようでした。焼きの名人でもある金瀬さんに一気に焼いてもらえば、少しでも統一感が出るんじゃないか。と思ってお願いました。実際、それで何とか一冊の写真集が完成しました。
金瀬さんの焼きは微妙なトーンに味わいがあります。それに比べ、私の焼きは全体的に黒いんですね。ただ今回、店に飾って、金瀬さんの焼きと私の焼きでは、同じ写真でも全く別の写真というのがわかりました。まず見ているところが違う。例えばこの写真、今はもうありませんが、新宿駅の西口の線路沿いに小さなショットバーが並んでいまして(電車を眺め、振動を感じながらウォッカを一気にあおる!)、そこで撮ったものです。これ、私の焼きの中でも特に黒い。水溜まりを表現するために、この黒さが必要だったんです。
もう一度、自分の焼きで『日計り』を作り直してみよう。出版10年目にして、そんなことを考えています。
(2014.8)