『日計り』刊行10周年記念サイト

私はここに帰ってくる

  歌舞伎町と言えば、夜の歓楽街ですが、私にとっては朝早く新宿駅構内のベルクに出勤し、一段落したらフラフラ職場を抜け出してさまようお散歩コースの一つです。もちろん、カメラを持てば被写体の宝庫。
  うちの店長は、歌舞伎町を一人で歩くのは面倒と言います。男性なので、キャッチのお兄さんの標的になりやすいんですね。私と歩いていれば心配ない。確かに歌舞伎町はずっと怖いイメージがありましたが、女性の私はほっといてくれる。細い路地や看板や電線がごちゃごちゃ入り乱れているので、昼歩きながらふと見上げると、雑居ビルの壁に光と陰の複雑な模様ができていたりします。思わず見とれてしまいます。それに夜の街だけあって、明るいうちはひっそりしています。人影がないのに、どことなく人の気配がする。まさに私の写真のテーマそのものです。と言うか、昼の歌舞伎町が私の写真の生みの親かもしれません。
  この連載を始めた時から、最後はこの『日計り』の表紙に使った歌舞伎町の写真で締めくくろうと思っていました。まあ表紙だし、何となくです。今年は『日計り』刊行10周年にあたる年。この連載のお陰で『日計り』について色々考えたり見直したりすることができました。そして改めてこの写真を眺め、結局私はここに帰ってくるんだなと思いました。それが確かめられただけでも、私には大きな収穫です。
  一年間、お付き合い頂きまして本当にありがとうございました。

(2014.12)