『日計り』刊行10周年記念サイト

人生のトライアングル(大久保の少女)

 
   90年から新宿駅構内の片隅でベルクという飲食店を経営しています。経営といっても、一店舗のみの小さな個人商店。経営者みずから現場に立ち、接客します。また家では雑務に追われるという毎日。年中無休。ただ、どんなに忙しくてもお酒はのみますよ。お酒はお酒さえあれば、どこでものめますし。それと同じように、写真はカメラさえあればどこでも撮れます。仕事一色に染まらないために、お酒と写真で抵抗しました。いえ、そんな勇ましいもんじゃないな。店とお酒と写真は私の人生のトライアングルです。どれもはずせない。3つそろえばどうにかなるんです。
  最初の頃は、店からあまり離れるのが難しくて、お酒も写真も近場ですませていました。新宿駅界隈か、地元の中野駅界隈で。ただ、大久保駅にはよく途中下車しました。今でこそ韓流の町で、昼から原宿のように賑わっていますが(それに一時、在特会のデモで騒然としましたが)、90年代はまだ歌舞伎町の果ての鬱蒼としたホテル街というイメージしかありませんでした。でも私には、新宿と中野をいったり来たりする生活の中で唯一、身を隠せる秘密基地のような場所だったのです。行きつけの赤提灯があって、公園や細い路地があって、のむにも撮るにも困らない。
  この写真は、まさにベルクを始めた90年に大久保の路上で撮った女の子です。

(2014.3)