ルミネ全面禁煙問題

10.4.3



○タバコを吸われない方にも考えてほしい


ルミネさんから「東京都の条例に従い、ルミネは館内を全面禁煙の方向で検討している」とお知らせがありました。
うちとしては、とりあえず「ちょっと待って」と申し上げるつもりです。そうしないと、黙ったままだと「異論なし」とされてしまうので。
お客様とテナントに向けて、まず説明会を開いてほしいんですね。喫煙者はもちろん、タバコを吸われない方にもできれば考えていただきたい問題です。
そりゃ、店としても、全面禁煙になれば灰皿洗わなくてすむし、壁も汚れなくてすむし、助かるんですよ。でも、そういうことじゃないですよね。
利用者みんなにかかわることが、何の話し合いもないまま決められていくのが果たしていいことなのか? ということです。
よろしくお願い申し上げます。→ルミネへの返答





(ベルク副店長 迫川尚子)








○街のテーマ



お客様より、東京都条例でタバコはどこまで規制されているか、とご質問をいただきました。
ごめんなさい。正直、私もよくわかりません。「指定された場所以外で喫煙を禁止」という条文があったと記憶していますが…。
いずれにしても、タバコの規制に関しては、すでに健康増進法がございます。恐らく飲食店に煙を管理する義務は、法的にもあるはずです。ただ、義務を怠っても罰則がもうけられていないため、法的強制力は弱いのかも知れません。
法的な問題とは別に、私が感じたことを少し述べさせて下さい。
街は長い間、喫煙者の天下でした。その反動は大きいと思います。嫌煙者は比較的最近ですね、声をあげられるようになったのは。喫煙者はそのことを心すべきです。私たちはあまりにも当たり前のようにスパスパやっていなかったかと。
ただタバコに限らず、生活習慣の異なるものどうし、いかに共存可能かというのも、多種多様な人間のルツボである街の重要なテーマだと思います。「全面」禁煙が果たしてその唯一の解決策なのかどうか、もう少し議論されてもいいのではないでしょうか。
もう一つ気になることがあります。今、何であれ臭いものにはフタをする風潮が強まっています。
公園でのホームレスの炊き出しが、「見苦しい」と住民からクレームが相次ぎ、隅へ隅へと追いやられているとボランティアの方からうかがいました。
見たくないものを見えなくしようとするのは人情だと思います。が、それが正々堂々世論としてまかり通ってしまうことに、一抹の不安を覚えるのは私だけでしょうか。







(ベルク店長 井野朋也)












写真 by 迫川尚子
音楽 by 井野朋也


















タバコは自分の手で巻く

10.10.12




10.10.12



タバコはやっぱり、自分の手で巻くものですね。
タバコって、エチケット・マナーの問題と健康の問題とがごっちゃになって論じられがちですが、とりあえず後者だけについて言えば、健康を害するもの、つまり発ガン物質とは、化学物質のことでしょう。
市販のタバコは、燃えやすくするために化学薬品が使われています。それで風味が失われる。それを補うためにさらに化学薬品が使われる。食品に似ていますね。野菜とか農薬漬けで、食材本の味が失われてて、味の素のような化学調味料に頼ってしまう、というのと。
ガンは、実はウイルスや菌が直接の原因というか、それに細胞が拒絶反応を起こすのが引き金になるといわれます。ただ、免疫機能さえうまく働いていればそれは抑制されるのです。

気をつけるべきなのは、免疫のバランス。どうバランスがとれているかなんて複雑すぎて誰にもわからないけれど、過度のストレスが一番バランスを崩すといわれます。放射能や化学薬品も(量や頻度や自分の状態にもよるが)バカにはできない。
だったら、あまりくよくよしないとか、タバコがほしくなったら無添加タバコを自分で巻くとか、そういう工夫も必要かもしれない。一本一本時間がかかりますが、それでちょうどいいのかもしれない。
煙そのものはリラックス効果ありますしね。
それに無添加タバコ、火をつけて吸うと煙はふつうに出ますが、吸わずに置いとくと確かに出ないんです。くすぶってます。市販のタバコは、火をつけたら消えるまで吸おうが吸うまいが出ますもんね、煙。あの置きっぱなしのタバコの煙がいやという方も多い。
そういう意味でも、無添加タバコ。いいかも。





(井野)




映像&写真 by 迫川尚子

音楽 by 井野朋也



株式会社ルミネ
常務取締役
ルミネエスト店長
木村 明様

晴山商事株式会社
代表取締役社長
ビア&カフェ・ベルク店長
井野朋也


全面禁煙化について

拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて、平成22年11月30日付書面にてお知らせ申し上げましたように、「全面禁煙」は当社の営業に重大な支障をきたす恐れがある上、次にあげる理由により同意することができません。念のため、重ねてお知らせ申し上げます。

●当店では、分煙で非喫煙者のお客様にも納得いただいている。
●館内を全面禁煙するにしても、そもそも当店ベルクのある場所は構造的に館内ではない。
JRと丸の内線を結ぶ連絡通路に面しており、お客様の大多数は駅利用者である。駅構内にはほんのちょっと一息ついたり一服したりする場所が(利用客の数に対して)極端に少ないため、ここは貴重な場所だというご意見を多数いただいている。お客様の支持がある限り、「喫茶」という当店本来の役割を放棄することはできない。
●コーヒーまたはアルコールとタバコがセットという(元々ネイティブアメリカンの)風習は世界的な文化として定着しており、欧米の飲食店でも、店内は全面禁煙でも店頭には喫煙所が用意されている。それ以上離れた場所の喫煙所は意味がない。
●元々飲食店での全面禁煙は、その場所から逃げられない従業員への配慮からおこなわれた。ベルクでは厨房前の全席を禁煙(分煙)にすることによってその点はクリアしている。
●健康増進法でも飲食店の全面禁煙を義務づけてはいない。分煙を(強制ではなく)推進しているだけ。飲食業界では、全面禁煙はただでさえ不景気で客離れが激しいこのご時世に大変な痛手になると反対意見が強く、慎重な対応が求められている。
●非合法な大麻を完全規制することには法的妥当性があるにせよ、合法なタバコを家主がテナントの同意もなく完全規制することはできない。
なお、完全禁煙のJR新宿駅構内においても、飲食店のベッカーズさんは分煙であることも付け加えておきます。

   
敬具

人生の止まり木


 私は、外食ではお酒と煙草が外せない人間なので(パカパカ吸う訳ではありませんが、どうしても今一服という瞬間があります)、ネット等でお店を探す時も喫煙可かどうかついチェックしてしまいます。全面禁煙か、全面喫煙可か、分煙か。煙草への対応を明確なポリシーで決めているお店もあるでしょうが、漠然とした印象で言えば、全面喫煙可は老舗に多い。新しい店ほど全面禁煙率が高い。つまり、禁煙は時代の流れなのです。全面喫煙可の老舗はその流れに逆らっているとも取り残されているとも言えるかもしれません。
 うちも親の代から数えれば創業45年の「老舗」です。昔は、飲食店の禁煙自体が珍しかったし、うちのような喫茶は特に喫煙目的のお客様の割合が大きかった。25年前、私たちが店を継いだ時点で業態をフルサービスの純喫茶からセルフサービスの立ち飲みに変えました。変わらなかったのはベルクという店名とコーヒーがメインであること、そして場所(JR新宿駅東口改札そば)と広さ(15坪)です。常連さんの顔ぶれはほぼ100%入れ替わりました。
 低価格高回転(薄利多売)のクイックサービスに変えたことで、客数は10倍近く増えました(1日平均1500人)。と言うか、そのくらい来客数がないと経営的に回らない。ネームバリューのない個人商店ですのですぐに目標は達成しませんでしたが、何年かかけてじわじわと軌道にのりました。また立ち飲みですので、なおさら駅の中の止まり木的な役割を担うようになりました。喫煙者の割合は純喫茶時代を上回るかもしれません。同じとしても、数は10倍増えたことになります。店の規模はそのままですから、煙が店じゅう充満するようになりました。
まだ嫌煙ムードが強まる前の時代でしたが、さすがに煙へのクレームが増えました。同じカフェ型ファストフードで先輩にあたるドトールさんを覗きにいったら、既にりっぱな空気清浄機が天井に付いていました。これだ!と思って、うちも付けました。想像以上に煙は緩和されました。
 もちろん、分煙にしない限り隣の煙は防ぎようがありません。ただ、うちではお席のご案内というのをしません。基本的には「お好きなところへどうぞ」。突き放した言い方をすれば「煙が嫌ならご自分で逃げるなり何なりして下さい」です。「喫煙席は?」というお問い合わせには「お隣の方がOKなら喫煙席。ダメなら禁煙席」とお答えしました。商品の受け渡し以外はすべてお客様同士におまかせというのがセルフの原則だからです。
 それで納得していただけるかどうかは、ファストフード店の腕の見せどころ。煙が絶対ダメという方は最初からうちを避けるでしょうが、これだけ安くてうまくてすぐ食べられるなら多少の煙には目をつむろうという方が一人でもいればしめたものです。マナーの守られる自由な店か、トラブルの多い無秩序な店か。それは商品の魅力にかかっていると言っても過言ではありません。実際、美味しいものを口にすれば人は寛容になります。また店を気に入ってくださるファンが増えれば、自然と譲り合いの精神が生まれます。よく「ベルクは狭いのに広さを感じる」とか「独特の居心地のよさがある」と言われますが、それは店の使い方を心得ている常連さんたちによって生み出された空気なのです。
 店がへたに介入してこの空気を壊したくないというのが、分煙にしなかった一番の理由です。客数と売上は嫌煙時代になっても順調に伸びました。経営上も分煙の必要がなかった。ではなぜ分煙にしたかと言うと、駅構内が全面禁煙になり、喫煙所が全廃され、喫煙者がうちに殺到したからです。世界一乗降客数の多い新宿駅の喫煙所をちっぽけな店が一手に引き受けるのはどう転んでも無理です。二台の空気清浄機もお手上げ。厨房まで煙草の煙で真っ白になりました。お客様は店を選べますが、従業員はそこから逃げられません。従業員を守るために厨房前のソファー席を禁煙席にしました。
 こういう時代だし、いっそ全面禁煙にしたほうがスッキリすると思うこともあります。吸殻がなくなるだけでも仕事の手間が省けますし。正直悩みますが、今までも時代や環境の変化に翻弄されながら、そのつどこうするしかないとギリギリの判断をしてきました。これからもそうするしかないでしょう。
 ただ、煙草やお酒は確かに「不健康」で「トラブルの元」かもしれませんが、私自身は自分の人生からそれらを排除するつもりはありません。寧ろどう付き合うかじゃないでしょうか。溺れてはダメだけど、人生やりきれないことばかりです。ぼーっと一服しながら、自分自身を見つめ直す時間も大事です。ベルクは元々一人向けの店ですし、道に迷ったり目的地そのものを見失った時にふらっと寄る店だという声をよく耳にします。ベルク自体が人生の止まり木…一服の煙草みたいな存在になれたら、と私も願っています。


2015
井野朋也