個人店にもチャンスを!
11.7.4
ジョン・レノンの「ギブ・ピース・ア・チャンス」じゃないですが、私どもが申し上げたいのはただ一つ、「個人店にもチャンスを!」なんです。
JRが着々と進めている、駅周辺(JR敷地内)の「個人店一掃」=「大手チェーン店一色化」に関して、わりと説得力あるのが、「駅前の個性は失われるかもしれないが、利用客にしてみれば、当たり障りなく無難なチェーン店の方が、とっつきにくく当たり外れの大きい個人店より利用しやすい」という意見です。それに対して、個人店擁護は、それこそ「個性」を切り札にするしかなかったりする。
しかし、どちらも一理あるでしょうが、かなりイメージによりかかっている気もします。だいたい「大手」対「個人店」という図式自体、単純すぎる。
店って、チェーン店だろうが個人店だろうが、それぞれの場所で個々に勝負しているわけです。「大手系列」とか「インディーズ」は、その店の重要な要素ではあるでしょうが(それぞれ長所にも短所にもなる)、店そのものの良し悪しを決める絶対的要素にはならない(ベルクも、成り行き上「個人店」をアピールせざるを得なくなりましたが、元々あまり意識したことはなく、むしろ「大手」の十八番であるファストフードで大手の店と勝負してきた‥自分たちとしては必死に追いかけてきた‥つもりです。少なくとも、坪効率ではベルクはこの20年間、周辺のどのチェーン店にも「勝ち」続けています)。それなのに、「個人店」であるというだけで排除されるのは、やはりおかしい。私は、すべての個人店を救えとは言いません。すべてのチェーン店をなくせとも言いません。どっちでもいい、いい店なら。…もちろん、店のよさにも色々ある(一元的ではない)わけですが。
もう一つ、私たちが問題にしているのは、JRのやり方です。あまりにも一方的で、あまりにもゴーイン過ぎ。時に命の保証はないという脅迫を、私たち店主は受けます。ただしかたないことですが、天下のJRがそんなことをするはずがないという思い込みが世間にはあるでしょう。メディアにとってJR問題は(最大のスポンサーですから)タブーですし、JR自身もノーコメントを貫く。「被害者」の私たちだけが(と言っても、ごく一部で、ほとんどは泣き寝入りですが)騒いでいるように見えるのです。私たちのほうが、ダダをこねているように見える。フェアな見方を心がける方たちは、私たちに、喧嘩両成敗的に「もう少しJRの意見も聞いたら?」「話し合ったら?」とアドバイスして下さいます。お客様にとっても、家主にとっても、テナントにとっても理想的なあり方って、ないだろうか?そういう話だったら、いつだって大歓迎です。いくらだって話し合いたい。JRも表向きには「話し合い」を強調します。ただ、中身は(私たちを個別に密室に呼び出して)「出ていけ」の一点張り。信じられないことですが。商売する身にすれば、駅は檜舞台です。ただ、ケイレツであれインディーズであれ、そこに居続けると次第にアグラをかいてしまう面が確かにあります。多少手を抜いてもそこそこやっていけるからです。JRやその子会社である駅ビルが、短期間で店を入れ替える方針にかえたのも、わからないではないのです。ただ、1年や2年じゃ店の味は出ない(個人店は、味が出るどころか知られる前にジ・エンド)というジレンマもあります。すぐ結果を出さなければならないのは今の日本のビジネスの基本でしょうし、JRもそれに則っているだけかもしれませんが、そういう考えは少なくとも店づくりには適さない。「店の味」なんてどうでもいいと言われればそれまでですが。
一つ念を押しておきたいのは、駅ビルの家主がマイシティからJR系列のルミネに変わったことは、私たちベルクにとって一概にマイナスじゃなかったということです。イメージ的にはむしろよかった。何たって、おしゃれっすもん。それに「立ち退き」さえなければ、ルミネとはいい意味で緊張関係が保てたような気もします。なあなあの関係より、厳しい目や審査基準を持ってお互い磨き合ったほうが、利用者のためにもなる。くどいようですが、私どもが申し上げたいのは「個人店にもチャンスを!」それだけ。個人店だから素晴らしいとか、チェーン店だからつまらないなんて言うつもりは毛頭ありません。ただ、個人店というだけで頭ごなしに「出ていけ」と言うのをやめていただきたいのです。
先日、阿佐ヶ谷駅そばの高架下商業ビル「ゴールド街」にいってまいりました。家主はやはりJR。話には聞いていましたが、想像以上の「シャッター街」にびっくりしました。2階なんて、営業中が老舗の喫茶店1店舗のみ。建て替えを口実に執拗に出て行けと言われ、店が次々に消えていきました。家主は新しい店を入れず、一時的な催事場ももうけない。しかし実は、建て替えというのは嘘(でなければ空耳?)で、改修の予定しかないというのが最近明かされました。店はまばらに残るだけ。意図的につくられたシャッター街です。中には頑張っているお店もあるし、イチオシのお店も見つけましたが、こういう商業施設は、店がいくつか抜けるとそれだけでうらぶれます。いくら一等地でも、その雰囲気は商売上致命的です。
JRには、古いお店が全部出ていき、ユニクロなどの大手の有名店で一気に埋め尽くすという勝手なシナリオがあるようです。いや、ユニクロもいいですよ。私だってお世話になることあるし。うんざりとは言いません。しかし、その横に古きよき(味わいのある)店があったっていいじゃないですか。新宿がまさにそうですが、新しいものも古いものも、チェーン店も個人店も、ごった混ぜになっているほうが、なぜか街は生き生きと賑わうのです。
(井野)
映像&写真 by 迫川尚子
音楽 by 井野朋也
日本最古の喫茶店 可否茶館
11.7.8
阿佐ヶ谷ゴールド街の2F。可否茶館から見た風景。スペシャル・コーヒーが美味でした。
阿佐ヶ谷の「日本最古の喫茶店」可否茶館ですら、家主のJRから権利を奪われ、利用客にも店主にも不本意な形で11年8月閉店になりました。この「不幸」がいつまでつづくのか?いつまで野放しにされるのか?
JRの街のありかたへの無理解。そして定期借家制度を悪用した悪質な追い出し。
(井野)
写真 by 迫川尚子
音楽 by 井野朋也
「日本初」の流れくむ喫茶店、8月で幕 東京・阿佐谷(朝日新聞)
喫茶店-Wikipedia
ベルク通信 2011年8月号
個人店万歳!
11.7.30
どこもいい風が吹き抜けていた。
7月13日
神亀の呑める中華料理店、大観楼へ。馬場から小滝橋方面に向かう早稲田通り沿いにあるお店。明るいうちから瓶ビールにぬる燗、海老チリ、そして喫煙と天国だった。あまりに素っ気ない店構え、席も基本的にカウンターなのに、おじさんだけでなく、若い女性の二人連れも。さすが!一時期、どの中華を試しても腹痛に襲われ、しばらく遠ざかっていたが、無化調の中華料理店はいずれもセーフ。どうやら油と化学調味料の取り合わせが私の身体にさわるようだ。
7月11日
月一度の社員会議。半分は雑談。ただ社員も今や10人。話が尽きず、昼の1時半から始めて、5時にはいったん店に戻ることになっているが、けっこうギリギリまで白熱する。会議の後は気心の知れた店で食事&お酒。この日は、中野のカルマを覗いた。万が一店主の丸山伊太郎さんがいたら、焼きそばを作ってほしかったのだ。願いが通じた。何年ぶりだろう!調理している時からスパイスの香りが立っている。これはもう丸ちゃんじゃなきゃ出せない味。
7月25日
ベルク21歳の誕生日。ベルクでさんざん飲んで食べて、お祝い気分で帰宅途中、麺が食べたくなり、やはり何年ぶりかに中野のモンファに。マスターが、シャンパンをあけてくれた。びっくりした。ベルクは新宿の名店だよ!新宿の名店!頑張って続けてと激励の言葉とともに、マダムと4人で乾杯。
近々、阿佐ヶ谷ゴールド街の裁判に証人として出廷する予定です。そのための意見書を書きました。
JRによる個人商店一掃(違法スレスレ)を、単なる個々の「トラブル」でなく、社会問題に発展させたいと考えています。
「トラブル」から社会問題へ
所謂「悪徳商法」は、法律で取り締まられるようになるまでは個々の「トラブル」に過ぎませんでした。「うまい話」にひっかかり「取り返しのつかない大損」をしても、法的手段がなければ自分を責めるより他ない。それでも「話がちがう」と声をあげる人が増えたから社会問題化し、法律も変えられました。
今は何かと「自己責任」という名の抑圧が働く世の中。声をあげるのも容易じゃありません。店員のような「逆らえない」相手に発散しちゃうクレーマーさんはいても、相手が誰とか自分の立場がどうとか関係なく一貫しておかしいものはおかしいと言える人は案外少ない。
全国のJR及びその子会社が、駅周辺の土地や建物を次々に買収、地元に根をはり地道に商売を続ける既存店を無理やり追い出そうとして「トラブル」を起こしています。例えば、追い出しの理由が「建て替え」という選択の余地のないもので、泣く泣く出たらただの「改修」だったということも。今のところ、一度出たら出る必要がないとわかっても後の祭。
私どもも同様の「トラブル」に巻き込まれまして、やはりルミネ幹部から「計画中の東西自由通路にひっかかる」と言われたことがあります。新宿区役所がネットに公開している図面では、うちはかすりもしない。たまたまそれを見つけたからセーフでしたが、そうでなければ「このまま続けてもしょうがない」という気分になったかも知れません。
ダマしじゃないかって?でも「家主とトラブル」なんて商売上えらいマイナスイメージ。店主は隠したがります。だから尚更表面化しにくい。うちはむしろお客様が「(追い出しは)とんでもない!」と怒って下さったので、それに支えられて踏ん張っています。
メディアも続々と報じて下さいました。勿論、好意的に。ただ「JR問題」と書くとデスクを通らないらしく、「ベルク問題」として取り上げて下さるので、うちが「トラブル」メーカーみたいな印象は拭えません。
とは言え、他にもポツポツと声をあげる店が出始めました。
駅から個人商店は一掃されるべきなのか?それを決めるのは家主?利用客?といった問題もそこには含まれています。
(井野)