「ベルクをつくったおいしい本」フェア
11.4.5
「ベルクをつくったおいしい本」フェア
2011.3.22-4.30
紀伊國屋書店新宿本店3Fエレベーター前!
▽フェアに寄せて
過日ひょんなことから京都にある本屋さん、恵文社さんにて「ベルクフェア」なるものを実施していたことを知りました。恵文社さんは非常に個性的なお店で、行って頂くときっと楽しい時間を過ごせると思います。ともあれ、私は負けず嫌いなのです。「京都でフェアを実施しているのに、なぜ同じ地域に根ざしている新宿でできないのか」という思いが沸々と湧いてきたのです。
(紀伊國屋新宿本店 フェア担当:伊藤稔)
▽ご挨拶
店づくりは、私のライフワークです。なので、「ベルグをつくった本」というお題を頂いた時、正直頭がグルグルしましたが、最終的に私の人生に深くさりげなくかかわった本を‥僭越ながら‥ピックアップさせて頂きました。
これらは、私にとって、単に影響を受けたとか、参考になったとか、役に立ったというところにとどまらない、むしろ運命のいたずらとか腐れ縁、眠れない夜のお供といった言葉こそふさわしい本ばかりです。
ベルクは一人だけではつくれない店です。なので、「ベルクをつくった本」は、うちの職人たち、社員たちにも選んでもらいました。こうして並べてみると、何の方向性も統一性もない。しかし、不思議な一体感がある。‥ちょっとこじつけっぽいですが、これぞベルクの味ではないか、と。
(ベルク店長:井野朋也)
●愛染恭介(ベルク通信編集長)の選んだ本
『コーヒーが廻り世界史が廻る』臼井隆一郎
コーヒーという因果を通してようやく私は世界史を生々しく感じられました。ベルクも、古今東西のコーヒーハウスと共通するものがあるのではと、ワクワクさせられた逸書!
『マカロニほうれん荘』鴨川つばめ
ここには全てがある濃縮還元人生劇場。衝撃を受けた小学生の頃、ほとばしる笑いのパワーにベルク精神が養われました!
『御馳走帖』内田百閒
百閒先生の随筆は拍子抜けするくらい淡々として心地良い。普通にしているのに他所で奇異に見られるベルクに通じるのでは、と言ったら失礼か!?
●井野冬二(ノラカバ)の選んだ本
『生みすてられた子供たち』シーファー
タイのバンコクって、その雑然とした空気、面白さが新宿に共通するものがある気がするんです。新宿からそんな空気が無くなったらつまんないですよね。これはそんなバンコクの70年代を舞台に描いたアジア現代文学の大名作です!
●市原結美(ビア・テイスター)の選んだ本
『鬼平犯科帳』池波正太郎
秘密警察の長官ながら、人は全て同じ土壌の上にいて、自分も盗っ人も同じ人間という目線を持ち、時には厳しく人の道を問う。マイバイブルです。
●今香子(コーヒーインストラクター)の選んだ本
『長谷川くんきらいや』長谷川集平
こんな愛を探してたら…ベルクにあったやないか!
●小林新(カリスマ?DJ )の選んだ本
『悪人正機』吉本隆明
吉本さんの言葉には、いままでになんども救われました。自分にとって未知の問題にぶつかったときは、吉本さんならどう答えるだろうか、と(無意識に)いつもかんがえています。
●宮崎智子(ホームページ担当)の選んだ本
『ムーたち』榎本俊二
ほのぼのファミリーものと思いきやなぜか修行している気分になっていく。。日々鍛錬することを教えてくれた榎本さんの真骨頂ギャグマンガ!
●奈村武彦(社員2年目)の選んだ本
『最後のシュート』ダーシー・フレイ
貧困層抜け出す方法は一つ。自分の力を信じるだけ。そんなアメリカバスケ界のアメリカンドリームの実話です。夢を掴むためには才能、努力、そして運も必要だと。僕にも考えさせてくれた作品です。
●井野やへ(会長)の選んだ本
『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア・マルケス
壮大なスケールの渦に叩き込まれた様なショックをうけました。60過ぎて、これほどのめりこんだ事に自分で驚いています。
●久野富雄(コーヒー職人)の選んだ本
雑誌『オンリーメルセデス』
コーヒー以外の唯一の楽しみ。
●河野仲友(ソーセージ職人)の選んだ本
『辻静雄コレクション』辻静雄
辻さんの本は重要。
●高橋康弘(パン職人)の選んだ本
『五体不満足』乙武洋匡
元気をもらえる。
●迫川尚子(副店長)の選んだ本
『重力 2』 重力編集会議
写真集『日計り』のキーパーソン。
『写真編集者ー山岸章二へのオマージュ』西井一夫
愛ある厳しさ。
『路上のマテリアズムー電脳都市の階級闘争』 平井玄
路上にすべてがある。
『共感覚ーもっとも奇妙な知覚世界』ジョン・ハリソン
『食の職』にも関係している?
『脳の中の万華鏡ー「共感覚」のめくるめく世界』リチャードEサイトウィック&デイヴィッドMイーグルマン
味の形が見える人とは?
『人間の顔をした科学』高木仁三郎
原発について放射能についての知識を。知ることにより不安は軽くなり適応力に。
●井野朋也(店長)の選んだ本
ベルクという店をつくる(考える)上で、一番キーワードになったのは、柄谷行人の著書でやたら目につく「交通」という言葉(元々マルクスの概念らしい)でした。まあ感覚的にですが。「異種交配」とか。飲食店でも創造的なことがしたい。それには、こうであらねばならぬという既成概念、純血主義はネックになる。むしろぐちゃぐちゃにいこうと思っていた時に、柄谷さんの本はどれも励みになりました。‥特に初期の本(図書館で偶然、中上健次との共著『小林秀雄を超えて』を手にとったのが最初の出会い)。ただ、どれか一冊に絞るのは難しかったです。絶版だった『ヒューモアとしての唯物論』をまずあげたのは、伊藤仁斎論がとにかく圧巻だったので。結局、今回リストにあげたのは初期ではなく、ノートに書き写すほど熟読した『〈戦前〉の思考』です。
すが秀実と渡部直己の『それでも作家になりたい人のためのブックガイド』は、物書きにでもなるかという私の淡く甘い考えを木っ端みじんに壊してくれた、ベルクを始める上で大きなきっかけになった本です。まさかそのすがさんが、うちの副店長の本(『日計り』)の解説を書いて下さることになろうとは。‥
物書きというのは言葉を扱う仕事です。ジョン・レノンが、オリジナルという考えに対して、言葉は僕が発明したわけじゃない、僕が生まれる前からずっとあった、と当たり前過ぎることを言ってますが、言葉を扱うというのは、単に自分の考えを述べるのでも(言葉に述べさせられているだけかも知れない)、言葉を玩具にするのでも(玩具にされているだけかも知れない)ない、それだけ言葉というのはあなどれない、言葉そのものの持つ力、物質性、歴史性にどれだけ自覚的(アンテナをはりめぐらせる)か、だと思います。そういう意味では、やはり文学が言葉を扱う仕事として最前線だと思う。別に、文学だけがエラいとか深いとか言うつもりはありませんが、一番アクチュアルな場であるのは確かでしょう。でも僕は小説も詩も書けなかった。ほとんど読まなかったから。読まなきゃ書けない。音楽は多少聴いたのですが。ブックリストにしても、10冊すぐにぱっと浮かばないことに(特に文学が少ないことに)愕然としました。俺の人生何だったの?と。まあ音楽ならすらすらといくのでしょうが。それでも夢中になった文学作品はあって、『十九歳の地図』の中上健次、『コインロッカー・ベイビーズ』の村上龍、『死の棘』の島尾敏雄、『ナチュラル・ウーマン』の松浦理英子、『暗夜行路』の志賀直哉、『春と修羅』の宮澤賢治、『それから』の夏目漱石‥(日本人ばかり)、その中からあえて笙野頼子と中原昌也の小説を一冊ずつあげました。
あと、フェミニズム関係の本を一時片っぱしから読みあさり、かなり影響(動揺)を受けたのですが、一冊これ!というのがありませんでした。
写真 by 迫川尚子
音楽 by 井野朋也